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大阪地方裁判所 昭和54年(行ウ)95号 判決 1981年2月25日

原告 服部マツ ほか三名

被告 東成税務署長

代理人 饒平名正也 太田吉美 ほか二名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五三年七月二〇日付でした原告らの昭和五〇年一一月一〇日相続開始にかかる相続税についての

(一) 原告らに対する各更正処分(いずれも昭和五四年五月一四日付及び同五五年一〇月一六日付各更正処分により一部取消されたのちのもの。以下本件各更正処分という。)

(二) 原告服部マツに対する重加算税賦課決定処分(昭和五四年五月一四日付及び同五五年一〇月一六日付各加算税賦課決定処分により一部取消されたのちのもの。以下本件重加算税賦課決定処分という。)

(三) 原告服部卓司、同佐々木方乃及び同大谷知子に対する各過少申告加算税賦課決定処分(昭和五四年五月一四日付及び同五五年一〇月一六日付各加算税賦課決定処分により一部取消されたのちのもの。以下本件各過少申告加算税賦課決定処分という。)

を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  服部広松(以下被相続人ともいう。)は昭和五〇年一一月一〇日死亡し、妻である原告服部マツ、子である原告服部卓司、同佐々木方乃、同大谷知子が相続によりその財産を取得した。

2  原告らのした申告、修正申告、被告のした更正処分及び重加算税又は過少申告加算税賦課決定処分、訴外大阪国税局長のした異議決定処分(国税通則法七五条二項一号)などの経過及び内容は別紙1記載のとおりである。

3(一)  本件各更正処分などには、被相続人に属さない預金を相続財産と誤認して総遺産価額を過大に認定した違法がある。

(二)  仮に過大認定の違法がないとしても、

原告らが、右預金の存在を知つたのは、大和銀行鶴橋支店から発見された「外務員メモ」(乙第五号証)を示された以降であり、しかも右メモには「服部産業(株)」と頭書きされていたため、原告らは右預金が服部産業株式会社又は第三者に属するものと信じて疑わず、他に被相続人の資産と確信しうる資料がなかつたため申告をしなかつたものであるから、本件重加算税賦課決定処分は取消されるべきであり、本件各過少申告加算税賦課決定処分も正当な理由(国税通則法六五条二項)があるものとして取消されるべきである。

4  よつて、原告らは被告に対し、本件各更正処分、本件重加算税賦課決定処分、本件各過少申告加算税賦課決定処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3の事実は争う。

三  被告の主張

1  大和銀行鶴橋支店、同大阪西区支店、同難波支店、同市岡支店及び同尼崎北支店には、別紙2記載の各預金が存在する(以下本件預金という。)。

2(一)  原告らは本件預金のうち整理番号1ないし15番、41、42、44、45、70、71番の預金(以下本件申告分預金といい、本件預金のうちその余を本件申告外預金という。なお、以下預金の表示は整理番号のみで行う。)を相続により取得した財産であるとして被告に提出した相続税の申告書及び修正申告書に記載した。

(二)  本件預金は、被相続人が大和銀行鶴橋支店において従来有していた定期預金などを解約して金銭信託預金などに預け替えられたものであり、その発生状況は契約ごとにほとんど一連番号が付されている。

(三)  右の管理に当つていた大和銀行鶴橋支店の担当銀行員が運用状況を記載していた「外務員メモ」(乙第五号証)には、鶴橋支店分の預金(1ないし71番)のうち服部喜代次(被相続人の通称)名義の預金である15、70及び71番並びに64番(森田印)を除くその余の預金が記載されていた。

(四)  31番ないし45番は、ほぼ一連の契約番号が付されている。

(五)  本件預金は、被相続人が代表取締役であつた服部産業株式会社の決算書や会計帳簿に資産として計上されておらず、また本件各更正処分の日までに本件預金が右服部産業株式会社に帰属すべきものとする法人税の修正申告書が提出されていない。

(六)  本件預金の大半が昭和四八年一一月一九日から同四九年一月二五日の間に切替えられたところ、大和銀行鶴橋支店の担当者は、そのころ新預金証書を被相続人の自宅に持参し、入院中であつた被相続人のかわりに妻である原告服部マツに手交したと認められる。

(七)(1)  大和銀行大阪西区支店ほか三支店における預金(72ないし80番)の発生経路は別紙3記載のとおりであり、被相続人が原告服部卓司ほか四名の親族名義で有していた自動継続定期預金八口を発生源としている。

(2) 鶴橋支店から他の支店に預け替えられた右(1)の預金と一連番号である四三九〇-一の預金(別紙3)は、大和銀行鶴橋支店において預け替えのうえ継続され、15番に至つている。

(八)  三和銀行深江支店の原告服部マツ名義の貸金庫に、64番の指定金銭信託申込書兼印鑑届に押印された森田の印鑑が保管されていた。

(九)  以上の事実によると、本件申告外預金は、すべて被相続人に属していたものである。

3(一)  したがつて、原告らの修正申告にかかる総遺産価額一億三五〇一万六七一二円に本件申告外預金の昭和五〇年一一月一〇日現在の価額一億五一〇〇万三〇五四円を加えると、総遺産価額は二億八六〇一万九七六六円となり、また原告らの修正申告にかかる各人別取得財産価額(別紙4取得財産価額の原告主張額欄)に右一億五一〇〇万三〇五四円を民法の規定による相続分の割合に従つて取得したものとして加算すると、別紙4取得財産価額被告主張額欄記載のとおりとなる。

(二)  その余の納付すべき相続税額の計算過程は別紙4記載のとおりとなる(原告服部マツの修正申告にかかる取得財産価額はすべて遺産分割によるものである。)。

4  重加算税について

(一) 前記2(六)、(八)の事実によると、原告服部マツは、本件預金がすべて被相続人に属することを知りながら脱税の意図の下に、殊更本件申告外預金を隠ぺい、除外して相続税の申告をしたものである。

(二) 仮に、原告服部マツが本件申告分預金を被相続人から生前贈与を受けたものだとしても、それらのなかには多数の仮名預金が含まれていること、相続に際し原告服部マツが被相続人の財産調査をしていることなどに照らすと、原告服部マツは本件申告外預金が被相続人に属していたことを知つていたと認めるべきである。

5  過少申告加算税について

原告らは少なくとも本件申告外預金の存在自体は知つていたと認めるべきであり、正当な理由(国税通則法六五条二項)は存しないといわなければならない。

四  原告らの認否及び反論

1  被告の主張1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、(一)、(五)及び(八)の事実は認め、その余の事実は争う。

3  同3(一)の事実のうち、原告らの修正申告額は認める。

同3(二)の事実のうち、原告服部マツの修正申告にかかる取得財産価額がすべて遺産分割によるものであることは認める。

4  同4、5の事実は争う。

5(一)  本件預金は、古いものでは昭和三三年に発生した預金が継続されてきたものであるところ、被相続人は当時服部産業株式会社の代表取締役であつたが、同人がその役員報酬及び株式配当で本件預金をすることができたとは考えられない。

(二)  大和銀行鶴橋支店担当者宇高稔は、前任者から「服部さん関係の預金だ」としてメモを引継ぎ、当該メモには「服部産業株式会社」と記載されていた。

(三)  したがつて、本件預金は、被相続人が服部産業株式会社の代表取締役として同社の収入の一部を簿外資産として管理していたものと考えられる。

6  原告服部マツは、昭和五〇年四月ころ被相続人から本件申告分預金の贈与を受け、それを相続財産として申告したものである。なお、この贈与は、被相続人が服部産業株式会社の代表取締役として行つたものである。

7  三和銀行深江支店の原告服部マツ名義の貸金庫から森田の印鑑が発見された事実のみでは隠ぺい、仮装行為とはいえず、他に「隠ぺい、仮装」を根拠づける事実は存しない。

第三証拠 <略>

理由

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二1  被告の主張1及び2(一)、(五)、(八)の事実は当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実に、<証拠略>によれば、次の事実が認められ、この認定に反する<証拠略>は採用できない。すなわち、

(一)  大和銀行鶴橋支店、同大阪西区支店、同難波支店、同市岡支店及び同尼崎北支店には別紙2記載の各預金が存在する。

(二)  原告らは本件申告分預金(1ないし15番、41、42、44、45、70、71番)を相続により取得した財産であるとして相続税の申告をした。

(三)  本件預金中鶴橋支店分は、被相続人が以前から同支店に有していた定期預金などに源を発し、それらが継続的に預け替られてきたものである。1ないし14番は遅くとも昭和四五年の数年前に預金されたものであること、15番は昭和三九年二月二六日であること、16ないし30番は昭和三三、四年ころであること、31ないし40番は昭和四三年の数年前であること、41、42、44、45番は昭和三三年ころであること、51、53ないし61、63番は昭和三四年ころであること、52番は昭和三五年ころであること、43、48、49番は昭和三七年ころであること、46、47、50、62、64ないし67番は昭和三八年ころであること、68、69番は昭和三九年ころであることが認められる。

(四)  大和銀行大阪西区支店、同難波支店、同市岡支店及び同尼崎北支店における預金(72ないし80番)の発生経路は別紙3記載のとおりであり、被相続人が昭和三九年ころから原告服部卓司ほか四名の親族名義で大和銀行鶴橋支店において有していた定期預金(この一部は15番に至つている。)に源を発し、それらが同大阪西区支店などに預け替えられたものである。

(五)  大和銀行鶴橋支店銀行員宇高稔は、昭和四八、四九年ころ被相続人や服部産業株式会社を担当する外務業務に当たつていた。同人は、前任者から「服部さん関係の預金のメモだ」として「服部産業(株)」の表題のある預金一覧表の引継ぎを受け、これをもとに自己の手控えとして「外務員メモ」(<証拠略>)を作成した。この「外務員メモ」中には、鶴橋支店分預金(1ないし71番)のうち被相続人名義の15、70及び71番、後記(九)の理由で切替手続の遅れた64番(森田分)を除く預金が記載されていた。

(六)  本件預金は、被相続人が代表取締役であつた服部産業株式会社の決算書や会計帳簿に資産として計上されていない。

(七)  被相続人服部広松は戦後個人で自転車の製造販売業をはじめ、昭和三四年以前にこれを服部産業株式会社という会社組織にし、自らはその代表取締役となつたものであり、同社は広松の意のままに動く同族会社であつた。

(八)  15ないし69番、72ないし76番は昭和四八年一一月一九日から同四九年一月二五日にかけて切替えられているところ、被相続人は昭和四八年一一月一五日から同四九年三月一二日まで大阪赤十字病院に入院中であつた。右切替手続のためには旧証書及び届出印の提出が必要であり、さらに新証書の受領が行われたと認められるが、それらの行為は原告服部マツが関与したと認められる。

(九)  64番の切替にあたつては、提出印の提出が遅れたため昭和四八年一二月一八日に仮切替の処理が行われ、同四九年一月一一日に至つて届出の森田の印鑑の提出を受けて正式切替の手続がなされた。

(一〇)  三和銀行深江支店の原告服部マツ名義の貸金庫に64番の届出印である森田の印鑑が保管されていた。

(一一)  服部広松は、昭和五〇年四月ころ妻である原告服部マツに対し「長年苦労をかけた」といつて本件申告分預金を贈与した。

(一二)  被相続人の死亡後、原告服部マツが他の原告らの委託を受けて主として広松の財産調査にあたつた。

3(一)  以上の事実によると、本件申告外預金はすべて被相続人に属していたものと認めるべきである。

(二)  原告らは、本件預金は服部産業株式会社の収入を原資とするものであり、広松が同社の簿外資産として管理していた旨主張する。たしかに、2(三)認定の事実からすると、本件預金の原資が服部産業株式会社の収入である可能性が大であるけれども、仮にそうであつたとしても、前記2(七)、(一一)認定の事実などからすると、広松は本件預金を服部産業株式会社のものとしてではなく、自己の預金として(換言すれば同社の資産を横領して)管理し、その利益を保持していたものと解するのが相当である(広松が会社代表者として原告服部マツに贈与したと考えるのは、あまりに不自然である。)。

4(一)  総遺産価額が一億三五〇一万六七一二円の限度では当事者間に争いがなく、これに右認定の本件申告外預金の昭和五〇年一一月一〇日現在の価額一億五一〇〇万三〇五四円を加えると、総遺産価額は二億八六〇一万九七六六円となる。

また、各人別の取得財産価額が別紙4取得財産価額原告主張額欄の限度で当事者間に争いがなく、これに一億五一〇〇万三〇五四円を各原告の相続分に応じて加算すると別紙4取得財産価額被告主張額欄記載のとおりとなる。

(二)  原告服部マツの修正申告にかかる取得財産価額がすべて遺産分割によるものであることは当事者間に争いがなく、別紙4のうち債務控除額(各人別とも)、加算贈与財産価額(各人別とも)、原告服部マツの申告にかかる取得財産価額は、原告らにおいて明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。そうすると、原告らの納付すべき相続税額は別紙4納付税額各被告主張額欄記載のとおりとなるから、本件各更正処分はいずれも正当である。

三  重加算税について

国税通則法六八条一項にいう「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出し」た場合とは、相続税についてみると、相続人又は受遺者が積極的に右の隠ぺい、仮装の行為に及ぶ場合に限らず、被相続人又はその他の者の行為により、相続財産の一部等が隠ぺい、仮装された状態にあり、相続人又は受遺者が右の状態を利用して、脱税の意図の下に、隠ぺい、仮装された相続財産の一部等を除外する等した内容虚偽の相続税の申告書を提出した場合をも含むと解するのが相当である。

これを本件についてみると、前記一、二で認められる事実によれば、(イ)本件申告外預金は、本件申告分預金とほぼ同じ状況で管理されてきた。(ロ)本件申告外預金のうち、記名式預金についてはいずれも架空名義でなされており、無記名式預金についてはいずれも架空名義の届出印でなされていて、通常の調査では本件申告外預金が被相続人の相続財産の一部であるとは確知しにくい状態におかれていた、(ハ)原告服部マツは、被相続人の生前中にその妻として本件申告外預金の管理に携つていたのであるから、結局原告服部マツは、被相続人の相続財産の一部である本件申告外預金が通常の調査では確知しにくい状態、即ち隠ぺいされた状態にあることを利用して、脱税の意図の下に、これを除外した内容虚偽の相続税の申告書を提出したものというべきである。

そうすると、原告服部マツに対して重加算税を課すべきところ、本件各更正処分が適法であることは前叙のとおりであり、修正申告により算出される右原告の「納付すべき税額」が別紙1の修正申告、納付すべき相続税額欄記載のとおりであることについては当事者間に争いがなく、したがつて右原告に対する重加算税額は別紙4加算税額被告主張額欄記載のとおりとなるから、本件重加算税賦課決定処分は適法である。

四  過少申告加算税について

本件各更正処分が適法であることは前叙のとおりであり、修正申告により算出される原告服部卓司、同佐々木方乃及び同大谷知子の各「納付すべき税額」が別紙1の修正申告、納付すべき相続税額欄記載のとおりであることについては各当事者間に争いがなく、したがつて右原告らに対する各過少申告加算税額は別紙4加算税額被告主張額欄記載のとおりとなるから、本件各過少申告加算税賦課決定処分はいずれも適法である。

なお、原告服部マツを除くその余の原告らは、国税通則法六五条二項の「正当な理由」が存する旨主張するので判断すると、原告服部マツを除くその余の原告らについては、本件申告外預金の存在を知つていたことを認めるに足りる証拠はないけれども、同人らは原告服部マツに被相続人の財産調査を委託し(前記二2(一二)の事実)、前記認定のとおり原告服部マツは本件申告外預金の存在及び帰属を知つていた以上、原告服部卓司らについて「正当な理由」はないといわなければならない。

五  結論

以上の次第で、原告らの請求はいずれも失当であるからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 乾達彦 井深泰夫 市川正巳)

別紙1ないし4 <略>

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